朝9時に出勤し帰るのは夜中の12時。そんな労働環境の人が約3割とも言われるのが外食業界だ。店舗のスタッフの配置権限のある店長が出勤スケジュールを決めるところがほとんどだが、一方で売上の増大と経費の削減を迫られるため一番手っ取り早い方法であるスタッフの代わりに店長が店舗に入って仕事をするという形になりがちだ。
スタッフの配置権限があるとはいえ、会社の経営と一体となった人事権は無い場合が殆どで、しかも出退勤の自由のある裁量労働体制にも程遠い。したがって最近のマクドナルドでの訴訟などに見られるように店長を管理監督者とすべきか否かで大きな議論となっている。大手紳士服チェーンでは一斉に管理監督者から店長を除外したところもある。
ではなぜそのような過酷な労働を強いられているのか。それは顧客本位制とでもいったらよいだろうか顧客第一主義、顧客原理主義のような思想がここ数十年の間でサービス業の間で広まってきたことが一因であろう。お客様の満足のために自分自身が犠牲になって奉仕する。そのような姿が見え隠れする。もちろんそれが悪いことではない。おかげで日本国内でのサービスの品質は飛躍的に高まり、利便性も高まった。
しかし、この状態を続けるには限界がある。若い労働者であれば少々の無理もきくが、労働者層全体が高齢化していく中、一人の人間に多くを負担させる働かせ方には自ずと限界が出てくる。しかも外国人労働者の受け入れが本格化すると、日本的な犠牲の精神など求めることは出来なくなる。
そこで、様々なところで新しい取り組みが始まっている。あるうどん店では夜の営業を取りやめた。なぜなら地域的に学生などの若い人が少なくアルバイトを集めることが困難だからだ。そこで比較的層の厚い主婦層に昼の営業を任せている。そのほかにも週に2日休日を設けた飲食店もある。それで売上が激減して採算が割れてしまえばどうしようも無いが、上記の2店舗では経営は完全に健全化されている。しかも従業員の定着率も非常に高いそうだ。
ES(Employee Satisfaction)、つまり従業員満足という言葉は以前からよく聞かれる。従業員がいきいきと働く環境こそが労働生産性を高め、収益性も向上するということだ。つまり、営業時間を削ることや休日を増やすことが必ずしも会社の経営という面とは衝突しない両立できる可能性を持つ考えであるといえる。
しかも、従業員の休日が増えれば他のサービス業へその人たちがお金を落としやすくなることから業界全体の売上増にも貢献できるかもしれない。顧客を蔑ろにしろというわけではない。顧客本位を改め、顧客満足と従業員満足のバランスのとれたサービス業を目指す時代が来ているのではないだろうか。
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